機材の話
撮影の目的によって、撮影機材を変えます。
私の場合、業務での撮影には全て目的を設定します(心の中でのみ、の場合もあります)。肖像写真でもイベントの撮影でも料理の撮影でも、クライアントの要望や期待を満たし、かつプラスαで結果をお渡しできることを念頭に、具体的な目的=ゴールを考えます。(目的=ゴールの話は別の機会に)加えて、あえて言えば、クライアントに喜んで、満足してもらうことは、全ての撮影の基本になっています。
さて、写真は機材がないと始まりません。フィルム時代のカメラの場合、撮影結果にカメラボディの違いが影響を与えることは限定的でした。例えば、最速シャッタースピード程度の違いで、あとはフィルムの種類や銘柄、そしてレンズの違いが全てでした。しかし、デジタルカメラが普及してからカメラボディの違いは撮影結果に大きな違いを生みました。センサーサイズ、画素数、画像処理エンジン、もちろん、レンズの違いに加えてそれらの違いが重要になってきました。
大きく引き伸ばすならセンサーサイズと画素数が大きいカメラが、暗い所での撮影ならば高感度のノイズ処理に優れたセンサーと画像処理エンジンが、より滑らかな諧調表現が必要ならば大きなセンサーと最新の画像処理エンジンが、のようなカメラボディの使い分けが出来るようになりました。そのくらい、カメラボディの違いが撮影結果に影響するようになりました。(オリンピックを撮影するスタッフのカメラが、メーカーや機種に偏りがあることを考えれば分かりやすいかと思います。もちろん、アフターサービスなども含んでの考慮でしょうが、やはりスポーツ撮影に適した機材はあるのです。)さらに、設定した目的を考慮し、センサーサイズの小さいカメラを選ぶこともあるし、単焦点レンズではなくズームレンズを使うこともありますが、それも機材使い分けの一つの考え方です。
そして、カメラボディと同様に、いや、それ以上にレンズの影響は大きいです。この場合のレンズは、少し前の時代や現代なら中華レンズと言われる類のもので、最新の国内メーカーのレンズはどのメーカーのものを使っても写りに大差はないと思います。差がつくのは、合焦速度や手ぶれ補正の性能で、写り自体はどのレンズを使っても不満はないはずです。閑話休題。前述の少し前のレンズは、収差の補正に差があり、周辺減光が激しかったり、背景のボケの形がざわついていたり、また、解像度に大きな差があったり、絞り値の違いで描写が大きく変わったりと、レンズ毎の個性があります。そのレンズの個性を撮影に活かす機材の選択も出来るのです。例を挙げれば、女性の肖像写真を撮るとき、特に意図がなければ肌の調子は整っていた方が喜んでいただけます。この場合、解像度が高く、隅々までくっきりと描写するコントラストの高いレンズよりは、解像度はそこそこで柔らかい描写をするレンズが適しています。必要なのは、毛穴のひとつひとつ、肌のシミや産毛を的確に描写するレンズではなく、肌の調子をなだらかに表現できるレンズなのです。逆に、柔らかいレンズを新築の現代的な建築物の撮影に使うと、建物の印象が変わってしまう場合もあります。ご存じのようにPCでの後処理で肌の調子は整えることができます。しかし、私はレタッチャーではありません。撮影後の処理に時間と手間をかけることは、納品の時間を遅らせ、処理代金を上乗せしなければならないのです、私は、そこに価値を置きません。撮影時にできる限りの手間隙をかければ、後処理は最小限に抑えられるのです。
つまり、撮影の目的=ゴールに適した機材を使うことの意味は、ここにあります。
「弘法、筆を選ばず」は、現在の依頼撮影には向いていないのかもしれません。一つのカメラで、何事も撮ることは出来ますが、その撮影に、さらに適した機材があるのかもしれないのです。そういう機材の選択も、カメラマンのやるべきことの一つだと考えています。
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